1991/06 「湾岸戦争」極東編

1991年6月に雑誌に載せた原稿の復刻です。そのつもりで読んでね↓


偽のほどは不明だが、アメリカ合衆国には「フリーの政策シナリオライター」という職業があるらしい。つまり「合衆国がとるべき政策と予測される結果」を、在野のライターならではの自由な発想で創作し、シナリオにまとめて政府に売り込む、一匹狼的な政策コンサルタントたちがいるというのだ。

 実際、スーパーコンピュータによる詳細なシミュレーションをパスして採用され、大きな効果を上げた作品も少なくないらしい。

 あの「ペルシャ湾岸戦争」もその一つで、無名の脚本家の持ち込み作品が土台だという。フセインは、このシナリオにもとづくアメリカの巧妙なワナにはまり、火中の栗を拾っただけだというのである。

 原油価格引き上げ、兵器弾薬の在庫一掃、サウジアラビアとの関係強化、アメリカ国民のストレス解消、日本叩きの新たな口実作り......など、このシナリオは多くの利益をアメリカにもたらした。おかげで作者は数百万ドルの原作料を得て、ビバリーヒルズに引っ越したという。事実とすれば、「さすがはアメリカン・ドリームの国」というほかない。

 さて筆者は、その湾岸戦争の原作者が『湾岸戦争2』なる続編を書き上げ、ホワイトハウスに提出したという情報を入手した。その全貌は不明だが、断片情報をつなぎあわせてみたところ、どうやら次のような、日本人にとっては非常にショッキングな内容であるらしい。むろん、合衆国政府が今度も彼のシナリオを採用する確証はないが......。

〈あらすじ〉

 首都圏一極集中が悩みのタネの日本では、かねて遷都・分都問題が懸案になっている。そこでわが合衆国は日本政府に対して、
「都心から遠い成田空港は大きな非関税障壁。いっそ首都そのものを千葉県内に移してはどうか
 と提案する。これは73%の確率で受け入れられる。客観的に見て、千葉は遷都先として最適だからだ。

 東京と神奈川の合計より広く、さしたる山岳もない土地に、人口はまだ東京の半分。すぐ隣だから各省庁や首都圏住民の転居はゆっくりと行なえ、国内の交通体系の再編成も局所的な手直し程度ですむ。保守王国でゴルフ場が多く、自民党議員には住みごこちがいい。などなど......。

 しかし、おさまらないのが(旧)東京都である。
 ゴミの捨て場にもこと欠く東京は、イラクと同様、長い海岸線がノドから手が出るほど欲しい。
しかも今の都知事は、あの豪壮な都庁を建てた人物。遷都問題で刺激されれば、たちまち「第二のフセイン」と化す可能性は高い。というわけで、
「東京ディズニーランド、新東京国際空港、ここ新宿から直通の都営地下鉄まで走っている千葉県は、すでに事実上東京の一部。東京が千葉を併合するほうが自然だ」
 という考えにとりつかれるまで、大した時間はかかるまい。

 知事は都内の自衛隊員や機動隊員を掌握し、手始めに浦安と市川の一部を占領する。ここは東京湾内の境界線のカギを握っている上、地形的にも「東京に属するのが自然」と言えないこともない地域だからだ。

 そこで合衆国は、浦安奪還を口実に国内各基地から出動し、東京包囲網を敷いて、都内のおもな建物を徹底的に破壊する(題して「ヘドロの泡作戦」)。

 首都機能がマヒした日本は、もはやアメリカの敵ではない。内戦だから、戦費は全額日本の負担だ。

 このように、極東を舞台に"第二の湾岸戦争"を起こすことで、日本の経済力は崩壊、合衆国の景気は一気に上昇。国際的リーダーシップをさらに確固たるものにすることができるのである。


(c)YanaKen 1991 as "バニー柳澤" オリジナル掲載誌:集英社「月刊PLAYBOY」1991/5?


<FOLLOW UP>
 この原稿のころの都知事は「鈴木さん」でした。